料理の脇役の麸が主役になった麸まんじゅう

麸嘉 僧坊の料理素材として中国から伝わってきた麸。安土桃山時代の頃には一般的に使われていたといわれ、いまでも京料理や精進料理には欠かせない食材となっている。麸嘉は江戸時代の後期の創業と伝えられ、初代の大和屋嘉七以来、代々御所に献上していたらしい。麸嘉の名も、麸屋の嘉七から命名されたものと考えられる。
 麸とは、つまりはグルテンの固まりである。小麦粉を水で練り、水の中で澱粉質を洗い流した小麦蛋白をもとに、もち粉を混ぜて蒸しあげてつくる。そのなめらかな舌ざわりと淡泊な味わいは、薄口仕立ての京料理との相性もよく、麸づくり自体が京料理の創造的発展とともに成長していったといえる。また、生麸に蓬や粟、胡麻、蕎麦などを練り混ぜて、彩りと微妙な味の差を楽しむこともできる。色とりどりの手鞠麸などは芸術品の趣すらある。そして、こうした麩は、ごく一部が機械化されたとしても、基本は昔ながらの手づくりの技法でしかできないものである。
 さらに、料理の素材でしかなかった麸を、主役ともいえる京菓子として考案されたのが、麸嘉の麸まんじゅう。青のりで色合いと磯の香りを付けた生麸で餡を包み、蒸して冷水にさらされた生菓子で、笹の葉でくるんで出される。今では麸まんじゅうは、麸嘉の名物として人気を博してる。

麸は料理の独創性があってこそ光るもの

老舗とはいいましても、京都の人口のうち一割の人たちが知ってくれて、口にいれていただいている程度ではないでしょうか。こういう手づくりをもとにした店では、到底それ以上シェアを上げることはできませんし、そういう意味では企業にはなりえないとも考えています。つまりは家業ということです。それでも、基本的なものを守ることも大事な役割ではないでしょうか。
 さらにいえば、麸づくりとは料理の素材づくりです。麸嘉で扱っている商品も、麸まんじゅうは主役といっていい京菓子てすが、麸そのものは脇役でしかありません。例えば細工麩にしても、料理屋の注文に応じてさまざまに考えをめぐらせて編みだされてきたものです。つまり、京料理の創造性と発展に支えられてこそ、京生麸の将来もあるのです。
 それにしても、ほとんど味のしないような淡白な生麸が、京料理を引き立てていることは間違いのない事実でありますし、その淡白さをこよなく愛する日本人の味覚の繊細さにも驚かされます。そして、麸嘉も麸嘉なりに、味があるようで味のない、生麸の独特の味を大切に育んでいきたいと思っています。

店舗情報

創業 文化文政年間
商号 麸嘉
所在地 京都市上京区西洞院椹木町上ル
電話 075-231-1584
FAX 075-231-3625
営業時間 午前9時~午後5時
定休日 月曜日、最終日曜日
麸嘉 地図 麸嘉 外観

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