普茶料理の形式にも似た独特の祇園料理

鳥居本 江戸時代、長崎に唯一の外国貿易港が置かれたことは、よく知られている。この長崎から、様々な外国の文化が流入し、当時の日本の文化に何らかの影響を与えていたことは想像に難くない。江戸時代に長崎から流行した卓袱料理は、中国料理が日本化したもので、大皿の料理を取り分ける形式など、普茶料理に通ずる要素がうかがえる。
 江戸中期にあたる享保年間(1716~1736)、卓袱料理に着目した初代・田畑與兵衛は、これを京風に改良して料理店を創業した。「鳥居本」と名付けられたのは、当初、八坂神社の鳥居の前に店を構えたためである。創業以来、長い年月をかけて洗練されていくうちに、同店の料理はいつしか「祇園料理」と呼ばれるようになった。といっても、基本的な献立の形式は創業時から変化していない。御吸い物を、「総菜」、前菜や刺身を「大菜」、揚物や精進物を「小菜」などと呼び、それぞれに味わい豊かな料理は、すべて大皿に盛り付けられている。
 歌舞練場のそばの現在地に店舗を移転したのは、四代目與兵衛の時代。また現在は、少し気軽に利用できるカウンタ-席が設けられ、座敷での祇園料理とは趣を変えた板前料理を賞味することもできる。美しい庭園や、行き帰りに祇園町の情緒を味わえるのも、鳥居本ならではの楽しみといえるだろう。

伝統を進化させながら料理をつくり続ける

 現代は、京都の老舗のなかでも「一見さんお断り」といった風習・しきたりがやや薄れ、徐々に開かれつつある時代といってもいいのではないでしょうか。当店でも、昼の営業時間には、少しずつではありますが、初めてのお客様も来られるようになりました。といっても、絶対に味を荒れさせることなく、かえってレベルアップできる形で変化していくことが肝要であると、私は考えています。
 当店の料理は伝統の形式にもとづいていますが、従来とは違う材料を試してみたり、味付けに新しいアイデアを盛り込んでみるなど、研究は日頃から怠らないよう心掛けています。そうした積み重ねの中で、少しずつ料理を進化させていけばよいのではないでしょうか。いずれにせよ、調理する自分が納得できる仕事をしなければ意味がありません。そういったポリシ-はこれからも貫いていきたいと考えております。
 近年は、本来旬があるはずの食材がどれも一年中売られており、昔ながらの季節感が味わいにくい時代になってしまいました。しかし、当店ではこんな時だからこそ旬を大切にし季節の移り変わりをしみじみと味わえる料理をつくっていきたいと願っています。

店舗情報

創業 享保年間
商号 有限会社鳥居本
所在地 京都市東山区祇園町南側570-8
電話 075-525-2810
FAX 075-541-0066
営業時間 正午~午後2時、午後5時半~午後9時半(オ-ダ-ストップは午後8時)
定休日 月曜、第二・最終日曜の夜
予約 要予約
鳥居本 地図 鳥居本 外観

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